東京芸術劇場presents 井上道義&読売日本交響楽団 マーラー/交響曲第3番

2019.12.06
東京都 : 東京芸術劇場 コンサートホール
午後 7時開演

マーラー: 交響曲第3番 ニ短調

読売日本交響楽団
アルト:池田香織
合唱: 首都圏音楽大学合同コーラス TOKYO FM 少年合唱団

チケット: S席6,500円 A席5,500円 B席4,500円 C席3,500円 D席2,500円 高校生以下1,000円
演奏会お問い合わせ先: 東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296 (休館日を除く10:00-19:00)

【道義より】

僕もこの巨大な作品は、そう何回も振っていないし、また振るとも思えない。
だからこそ、以前のまあ常識的な演奏方法をもう一回考え直し、楽譜を詳細に見る時間
を取り読響にその辺をかなり詳細に実現してもらおうと努力?した。
こういう姿勢は、思えばショスタコーヴィッチの作品と相対した経験から出てきた
とも思えるが、更に思えば、僕自身の生来の偏屈な疑り深い精神構造から
育まれていたとも思える。

こんな面倒な言い方しなくても・・・・
(暇ある人以外この後は読まない方がよい!読むのに3番と同じくらい時間を食う)

この曲を肥大したつまらない作品だなあ、と感じる演奏や、なんだか意味もなく騒がしく、
共感できない演奏を聴いてきた経験が多々あり(それなのに人は熱狂して拍手をする
違和感も含めて)今回、芸劇で、読響、音大生の合同コーラスと、大好きなFM少年コーラス
との結果が、そのようになるのが嫌で勉強??椅子に座って立つとフラつく位、
楽譜とにらめっこした訳だ。
実演を見た過去のバーンスタイン、シノポリ、小澤、の本番や、いまある多くの新旧の
CD等でのこの曲の演奏は誰がやっても常に2、3、楽章が1楽章と対照的に暴れまくりるテンポ
でやられる。
6楽章目の終楽章は当然未来に出来るはずであったマーラー9番の終楽章の悲観、悲哀、
又は誰かの演歌風レクイエムと言ってもよい様な、ダラダラと悲嘆に暮れて泣くような
ベトベトな演奏が主流を占めている。
そんな演奏の重なりでこの作品は交響曲とは言えないかも!とか言う批評家や
解説文書き手が出てくる始末なのだ。こういう面は1番のシンフォニーでも同じことだが。

!!間違っている!!作品の問題でなく演奏の問題なのだ。

ハイドンのシンフォニーを聴いて、古くさいしつまらないと思った人は、
演奏がこそがそうしてしまっているのであって、ハイドンの音楽がつまらなく古くさい
わけでないことに気がつかないのと同じ。
というわけで、今回は僕らしくなくちょっとオタッキーに細かく書いてみる。

1楽章は夏休みに35歳の思い切り才能ある男が、湧き出すように書いた物で、妄想から
楽譜に書き尽くされた「生きることはよいこと感!」それも数ヶ月前には年下の多少
作曲が出来る弟が自殺した(不勉強で理由は詳しく知りません)後にも関わらず、だ。
グスタフはキリスト教を信じてはいないので天使とか、天国とかを思う態度は標準的
日本人または標準的現代人と同程度で、「神の恩寵」は春の息吹や夏の雨上がりの
良い感じ、と同程度だし、半分の弦楽器で!と書かれている部分は遠くから聞こえる
行進曲で彼の少年期の環境の音そのままであるし、鳥の声、町の楽隊が吹く吹奏楽、
友達が弾くバイオリンの断片、目の前にそびえる山や湖の波風、自分の中に沸き起こる
男なら必ず経験している膨張感?又はたらふく食べた後の満腹感、強い日差しの太陽
がもたらす肌と光線の交接感などを、これでもか!とばかり溢れるばかりの作曲能力を
遠慮なくペン先から滴らせた物だ。
シューベルトやシューマンのように友達も多くは居ないしショスタコーヴィッチのように
周りに同じ音楽院、同じ街に育った学友もいない彼だからこそ書けたと思う内容。
その点、北海道音更【オトフケ】出身の伊福部昭と共通だ。体が強くはなかった武満徹
タイプとは大違いだし、オルガニストで神と相対していた先生でもあった
ブルックナーとも全く違う。
天才的なオペラや交響詩で才能があった、先達、Rシュトラウスのように世俗的な成功を
望むこともなかったようだ。すべて脳味噌の中の至福感を求めていたと思う。
(上記蛇文は35分かかる1楽章のエコーであ~~る)

2楽章は
彼に言わせると「野の花が語りかけるもの・・・・」
真実は花や木は人間に語りかけることはなく、語りかけるのは一方的に人間の
片思いなのだが。そこでは故郷で彼の周りにあった街の音楽士が奏でるテンポ
(レントラー)で演奏され=楽想の変化時には「インテンポで」と書かれている。
近くの村祭りで人々が田舎っぽく踊る様が描写され、聞く人々は色んな想像が膨らむ。
(これも世の中ではパガニーニのバイオリンコンチェルトのように、わかりやすく言えば
岸和田の山車祭りか、何処かのはだか祭りのようにアップテンポで乱雑に演奏される)
今回、ゆったりと丁寧に、最も練習に時間をかけた。

大変個性的な3楽章(森の動物が語りかける...かな?)は常識はさらにグアイガワルイ。
マトーシュカのように入れ子になっている作りで、常に2拍目には何等かの指示が
書かれ、(もちろんジャズの後打ちとは意味が違うけど)歪(イビツ)なリズムな
森の鳥達の、いわゆる音楽とは違う、鳴き声そのものの描写を試みている。
ベートーベンの田園やヨハンシュトラウスの鳥声の音楽化とは違ったことを試みている。
どうもこれらを世の中はパロディーと捉えている様でさえある。
背景にはやはり2楽章とは違って2拍子ではあるが、やはり田舎の年寄りのダンスの動きが
聞こえている。
途中それがまるでそれこそ伊福部さんの(若い頃はアカデミックな音楽家や批評家に
さげすまれたと生前おっしゃっていた)農作業動作の音楽化のように、
エネルギッシュに音画化された部分のあとオケ中のトランペットが突然その楽器の歴史を
紐どかれるように、郵便ラッパの音と変質するのだ。
(マーラーの時代には郵便ラッパは現実だったようだ・・・・僕の子供時代
屋台ラーメンのチャルメラや自転車での豆腐屋のラッパ、人力車で引く金魚屋の呼び声、
竹売り(竹や~~竿竹!)は現実だった)
舞台裏からの音が過去への誘いを見せるのだ。
これも今までポストホルン=ラッパが聞こえてくるのは突然で意味がわからない演奏しか
聴いたことがなかった。どうやらすべてダンスをバレエテンポでそれも
スパルタカスジャンプのようなそれで・・・・(フェラーリの加速音付きテンポ?)。
うまいオケならいくらでも速くできるしそれは確かに爽快感があるが、それで3楽章の
お話の脈絡がわからなくなるのに誰も文句を言わないで長年来たと言えます。
そんなテクノロジーは砂に指でメルヘンを描くために原子力発電所を作るようなもんだ。
ポストホルン都響の高橋さん大健闘、読響のホルン松坂さんたちと垣根を越えての共演に
乾杯。

4楽章から参加した池田香織さんは日本一のアルト歌手。深い響きと、ドラマティック
な歌の表現力、そして自然な存在力に深い共感をお客さんは感動したと思う。
彼女がディクションや発声の指導をした音大連合女性軍!コーラス。五楽章では
暗譜で、でも軽快に女性天使になってくれた。魅力ある歌手陣に、読響のおろしたての
胴の木肌のきれいな新しいグランカッサも高鳴った。
東京FM少年コーラスとの結果の少年合唱団、ミチヨシ少年より落ち着いたもんだった。
恐怖の名指導者、米屋さんは何十年も前、マーラーの2番シンフォニーから導き出された、
ベリオの「シンフォニア」の日本初演の時に歌ってもらったという古い付き合い!!
積年の立派な仕事に脱帽。
6楽章は前段に書いたが、神を信じないマーラーの自己陶酔型の人間賛歌として、
前に向かって流れる音楽を若いポジティブ思考な読響全員が、二度と帰らない今を
歌った。多分この楽章は誰よりも短くなったと想像する。
1楽章だけでなく素晴らしかったソロトロンボーンの青木昴さん、皆感動した。
今若い人たちが恐れることなく心広く演奏する。
コンマスはゲストの白井圭君もソロには願ったメロウな音質を具体化してくれたし、
みんなをリードする資質満載。
あと一人一人今が旬と言える人たちに支えられた。
何より前日にホールリハーサルが出来なかったらこの結果は出なかった。
館長の応援にも、激感謝。

鈴木都知事のバブリーな時代に建てられた芸劇、あの頃違和感があった色んな部分を
作り替え、人々になじんできた。
何より発信するホールとして都の文化行政の中心になりつつある。

日比谷公会堂もよろしく。

追記  
この日の演奏テンポが世界基準になる時代が来る(グスタフの言葉「私の時代が来る」へのオマージュ)

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「音楽の友」2020年2月号◆コンサートレビュー掲載
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